結城浩: 無駄について
「無駄」について思うことを書きます。先ほどふと思ったことですが、以前から気になっていた話題でもあるので。数年前、ある先生から「最近の生徒は試行錯誤が嫌いで、失敗も嫌いで、無駄なく効率よく学びたい意識が強い」と聞いてから、そのことを心に留めていたのです。 無駄といっても範囲は広いので、ざっくりした話だと思ってください。私自身は基本的に「人生に無駄なし」というスローガンを持っているのですけれど、無駄を恐れるのは人一倍あります。それは後悔が嫌いだからです。「あんなことしなければ」という気持ちになるのが嫌い。 なので、まあ、合理化も強いと自己分析はあるのですが、それはまた別の話。
三つのポイントを書こうと思います。
①無駄かどうかは後からわかる
②無駄にしない工夫がある
という三つのポイントです。
①無駄かどうかは後からわかるものです。最初から本当に無駄だとわかっていることをする人は少ないわけですから。たいていは、やってから「しまった、無駄だった」となるわけです。なので迷うのは「これは無駄かどうか、どちらだろうか」という場面がほとんど。
そして迷うくらいなのですから、判断が難しい状況ともいえます。「無駄を避けよう」とするとどうなるかというと、難しい判断を事前に行うことになりますが、当然ながら、その判断は成功するかもしれず、失敗するかもしれない。そして無駄を避けようと本気で考えるなら、一歩が進めなくなってしまう。
現在の自分を考えないと、無駄かどうかはわかりません。ということは、第三者が判断することはもっと難しくなる場合があります。明らかな無駄や、大きな無駄を避けるために第三者の意見を聞くことは有効ですが、自分に依存した話題。現在に特化した話題の場合は、第三者に聞くのはあまり有効じゃない。
もしも第三者に聞くとしたら、現在の自分の状態を相手に伝える必要がある。現在の自分にとって、これは無駄でしょうか?のように。
でもよく考えるとそれは、自分が判断する代わりに他の人が判断していることになるので、その「他の人」を信用するかどうか、という判断を自分がやる必要があります。それをまったくしないならば、自分が判断するよりももっと大きな無駄が起きる可能性もあるでしょう。
②無駄にしない工夫がある、というのが二つ目のポイント。無駄になりそうな活動があったときに、無駄だからやめるという判断がしっかりできるなら、傷は深くならないので安心。その判断は事前に決めておくこともできるけれど、難しいことも多い。でも大事なのは途中で振り返ったり見直したりすること。
よくいわれるのがサンクコストとかコンコルド効果というもの。せっかくここまでやったのだから、といってさらに無駄を膨らませてしまう。無駄がいやなら、やめる判断は始める判断よりも重要(そして難しい)。 途中でやめたら、完全に無駄かというとそうではなくて、今後の自分によい影響を与えられる可能性がある。それはその活動を始めたときの自分の判断は正しかったか、間違っていたかを虚心に調べること。情報が足りなかったとか、こういう点を考慮すべきだったな、みたいな考えに至るなら、無駄じゃない。
現状の認識の修正ともいえるし、自己認識の修正ともいえる。さらには「自分はよくこういう種類の失敗をするけれど、今後その失敗を避けるにはどうしたらいいんだろう(避けた方がいいのか、避けることが可能か、避ける確率を下げられるか)」と考えるのは無駄を無駄にしない工夫。
③無駄を避けると無駄が出るというのが三つ目のポイント。無駄を本気で避けようとすると、過剰な適応をすることになる。現在の自分、現在の状況をつぶさに考えて、完全な最適化、チリチリにチューニングした活動ばかりを狙うことになる。
そのためには、自分を正確にとらえる。現状を正確にとらえる。どういう手順でどんなタイミングで何をどうするかを精密に考える必要がある。すばらしい!……本当か? でもそのような最適化をためには、多大な時間と労力を使う必要があることになる。
ノーコストで最適化をすることはできない。ということは、「無駄を避ける」といっても最後は程度問題にならざるを得ないことになる。完全に無駄を避けようとすると、その避けるための時間や労力は過剰にならざるを得ない。過剰なコスト……それは無駄だ。
それではアウトソースすればいいのでは? ということで専門家や信頼できる誰かにおうかがいを立てるのはどうだろうか。それは自分の判断を他者に依存させる危険性がある。無駄を避けるためにリスクを背負う。それが悪いわけではないけれど、その自覚は必要。
そして大事なこと。「無駄を避けよう」とする意識が極端に強いとしたら、それ自体が無駄を生じさせている原因となるという認識が必要。無駄を避けるため、必要以上におそれ、心配し、不安になること。それ自体が無駄を生んでしまいかねない。
自分の中から何かを作ったり生み出したりする活動をしている人の場合には特にそうだ。無駄をこわがっていると、手が止まる。足が止まる。勢いを失う。モチベーションが下がる。そっちの方がよっぽど無駄だ。
「勢い」は重要である。特にそこが、よくわからない世界ならばなおさらだ。自分が何かを作ろうとしている世界が、よく知られているならば、他の人の意見もよく聞こう。十分な下調べをしよう。情報収集に努めよう。しかし、 しかし、まだ誰もやっていないようなこと。よく知られていないこと。そんな世界の話に関わっているならば、「勢い」重要である。自分のモチベーション、重要である。無駄をおそれる気持ち、無駄である。
思い切ってやってみたら面白くなることは多い。思い切ってやってみたら意外に簡単なことは多い。やればすぐにわかることはたくさんある。思い切ってやってみて、自分で取り組んでみて、どぼんと飛び込んでみて、初めて意味がわかることはよくある話だ。
以上、「無駄」について書きたかったことは以上です。連ツイ楽しい!😊
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